「社長のお役に立てることは未来会計だ!」V字回復を支える林徹氏の“聞く経営支援”—— 税理士法人シールドブレイン 林 徹
目次
宮城県仙台市の税理士法人シールドブレイン。代表の林徹氏は「中小企業の可能性を広げたい」との思いで未来会計を導入し、数々の企業をV字回復へと導いてきました。税理士でありながら“聞き役”に徹する姿勢と、経営者の心に寄り添う支援スタイルが、従来の税務を超えた新たな価値を生み出しています。その原点とは——?

税理士法人シールドブレイン
代表取締役
林 徹税理士の林徹です。大学卒業後、会計業界で経験を積み、2005年税理士登録、2008年に独立開業しました 。赤字企業を担当する中で、「社長のお役に立てることは未来会計だ!」と確信し 、未来会計を導入 。そして、独立から10年後の2018年に阿部純子税理士と税理士法人シールドブレインを設立いたしました 。私たちの事業目的は「中小企業の可能性の追求」です 。面談では社長の聞き役に徹し 、数字を通じて未来の姿をお見せすることで 、気づきを得て頂き、成長をサポートしています。未来会計は、これからの日本経済に必要不可欠な仕組みだと確信しています。 |
会計業界と未来会計の出会い
Qまず会計業界に入ったきっかけから現在に至るまで、林さんのキャリアをダイジェストでご紹介いただけますか?
大学を卒業してから会計事務所業界で仕事をしていました。
税理士を目指したきっかけは、専門的な仕事がしたいと思ったからです。サラリーマンとして企業に勤めるよりも、独立も目指せる税理士という仕事を大学在学中に知り魅力を感じました。9年くらい勉強し、平成16年に税理士試験に合格しました。平成17年には税理士登録を行い、平成20年に独立開業しました。
実は独立前からMAP経営シミュレーションシステム(以下、MAPシステム)の導入を決め、MAP経営(株式会社MAP経営)の研修に参加しており、独立と同時に未来会計を導入しました。厚意にしていただいていた社長に経営支援で事務所を大きくしていきたいと話していたところ、その社長が「じゃあ私のところで契約してあげるから」と1件目のMAS監査契約をいただきました。
そこから未来会計を本格的にやりだしました。
私が会計事務所に入社した平成10年頃は景気が今よりも悪い時代でした。税理士になるために税法や税務会計の勉強をしていましたが、この勉強は「本当に社長のためになるのか?」といつも疑問に思っていました。税務の仕事は黒字で税金が発生していることが前提ですが、その時私が担当していた会社様は全部赤字でした。その対応に悩んでいた頃、ちょうどMAP経営さんからFAXで未来会計についてのセミナー案内が届きました。
独立する2年前くらいに仙台でMAP経営創業者である高山さんによるMAPシステムを使ったセミナーがあり参加しました。研修を受けてから自分なりに考えたのですが、倒産しない会社や経営がうまくいっている会社の多くはしっかりした経営計画を立てています。計画に基づいて達成管理を遂行できれば、倒産はあり得ません。そこで、私がやりたいことは「経営計画だ」と確信し、独立後未来会計を導入しました。 ちなみに私は独立して10年後に税理士法人にしようと思っていましたが、ちょうど10年後の平成30年に阿部純子税理士と税理士法人シールドブレインを設立することができました。
Q手に職をつけると言っても色々な職種があると思うのですが、あえて税理士を選んだ理由を教えていただけますか?
中学2年生の時、学校の先生に将来の夢を聞かれた際に、「金持ちなれる仕事をしたい」と答えました。その回答を聞いた先生が「それなら公認会計士が良いよ」と教えてくれました。
その後進学した高校の先生に「公認会計士になるためには、東北大学の法学部か経済学部に入学するしかない。この高校のレベルでは東北大学への入学は難しい」と言われました。それであれば、公認会計士は諦めるしかないのかと思い、その時習っていた空手の先生になることへ将来の夢を変えました。
その後大学には行っていたほうがいいなと考え、大学に進学し、大学2年生の頃に履歴書に書く目的で資格取得をすることにしました。そこで簿記の専門学校を紹介してもらい、3級、2級と順番に取得していきました。そうすると次は税理士コースか1級コースのどちらかを目指すことになりました。
その際、税理士についての話を詳しく聞いてみたところ、仕事内容が以前なりたいと考えていた公認会計士に似ていることが分かりました。そこで税理士を志すことに決め、大学2年生の頃から税理士コースに進みました。
独立後の未来会計への取り組み
Q平成20年に独立されたとのことですが、独立は最初から決めていたことなのでしょうか
そうですね。実は、最初に勤めた税理士事務所は2ヶ月で退職しています。今思い返してみると、規模が小さな事務所だったため、あんまりにも先生との距離が近すぎてしまい、お互いの嫌なところばかり目についてしまったことが原因ですね。
今度は、ある程度社員がいて、代表の先生とも距離が保てる規模の事務所に就職しようと考えました。今度は思い通りに事が進み、結局10年間勤めました。
Q未来会計プランナーとして本格的に仕事を始めたのは独立後でしょうか?
そうですね。独立してすぐにご契約いただいた社長がいて未来会計に取り組みましたが、最初はその会社以外に未来会計の仕事を広げることはできませんでした。未来会計の仕事が取れ始めたのは独立して3年目くらいからで、ちょうど震災の後でした。
税務の顧問先に未来会計のことを説明し、「まずは計画を作るところから始めませんか」とお伝えしていったところ、徐々にMAS監査の契約数が増えていきました。震災直後は、商圏の7割を失った企業もあり、かなりのダメージを実感しました。今までずっと黒字できていたのに、いきなり赤字続きというような感じです。
その中で当初は赤字でしたが、令和元年に弊社とMAS監査の契約をしていただき、ようやく今年(2024年)になって単月黒字が出るようになった会社があります。
しかし、当初目標設定していた売上高は大幅に超えそうなのですが、目標の粗利益には届いていないため苦戦しています。今年度はまだ時間が残っているのでなんとか挽回したいと考えています。社長にこれからどれくらい売上を稼げば黒字になるかシミュレーションを見せて、単年度でなんとか黒字になるように打ち合わせを行いました。
こちらの会社はとても印象に残っています。思い返すと、震災後の損失は大きく、税金の話はほぼなかったです。
「今後会社をどのように立て直していくか」という話を中心に相談を受けてきました。未来会計は社長の考えていることを数字でお見せすることができます。未来の結果を数値として見せることで、社長への気づきを得ていただくこともできます。
印象に残っているお客様
Q先ほどもお話いただきましたが、未来会計プランナーとして印象に残った会社様のお話があればお伺いできますか?
長く継続しているという点で印象に残っている会社があります。震災の翌年あたりからMAS監査のみを担当している会社です。その会社は東京電力からの賠償金で特別利益が出続けていましたが、本業はずっと赤字の状態でした。ようやく前期に単年度で営業利益が出て黒字に転換することができました。
社長とは粗利までの部分を細かく何度もシミュレーションしました。「ここまで粗利が下がると赤字がこれだけになりますよ。逆にここまで粗利をキープ出来たら、黒字にできますよ」とお見せしました。
そして、今までで一番大きい売上シェアを持っていた顧客の規模を縮小し、新規顧客の規模を拡大することで粗利率が高くなるように体制を変えていきました。3年から4年程かけて取り組んだことが、この大幅な利益アップに繋がったのではないかと考えています。
社長はMAS監査契約当時からOEM先が1社だったのを、値段交渉ができないため将来的には3社にしたいと言われてました。最終的にOEM先を4社にすることを達成し、収益構造を改善されました。
ものすごいV字回復であったので、社長も私も大変苦労しましたが、そこに関われたことはとても良い経験になっています。
大切なのは社長の聞き役になること
Q実際には見えない改善の積み重ねが大きな結果を生み出したのではと思うのですが、林さんが顧客と関わる時に注意している点や、苦労したことなどありますか?
キャッシュリッチな会社だったため、資金繰りの不安はあまりありませんでした。特に収益構造の改善に注力し、収益構造がこのように変わったらとのシミュレーションを中心に社長と対話を続けてきました。
嬉しいことに、社長からは「林との対話の時間が癒しの時間なんだ」とおっしゃっていただきました。毎月2時間くらいの面談を取っているのですが、数字の話はせいぜい20分程度です。残りの時間は社長がずっと今後の戦略について話してくださるので、私は聞き役に回っています。
Q前述の会社様は未来会計だけ契約しているとのことでしたが、どのようなきっかけで未来会計の契約ができたのでしょうか?
立教大学の山口教授が主催されている「スモールサン」という中小企業サポートネットワークの勉強会がありました。そのゼミ仙台の勉強会に参加したときに、お会いしたことがきっかけです。
その際、「他の税理士事務所と何が違うの?」という話から、未来会計の仕事内容を詳細に説明したところ、既存の税理士との税務顧問契約はそのままで未来会計のみの契約をいただきました。
損益分岐点の質問があったのでこちらが具体的な数字をお伝えしたら、企業担当の税理士が出した損益分岐点と大きく異なっていたことがありました。私がお伝えした損益分岐点は10億円、税理士が出した数字は60億円です。
担当の税理士は制度会計上の決算書の数字だけを見て売上総利益を粗利率において損益分岐点を割り出していたのでとんでもない数字になったのだと思います。きちんと変動費と固定費を分解せずに粗利率を計算していることが原因だと思います。
そういった点で、社長としては今の税理士とは長く税務で関わっていますが、経営支援に関しては違和感を感じていたように見えました。
「教える」ではなく、むしろ「教えてもらう」気持ち
もう1社印象に残っている会社は、最近ご契約をいただいた会社の事例です。創業して4年くらいの会社ですが、業績はとてもいい状態です。
先日「将軍の日(中期五ヵ年経営計画立案セミナー)」にご参加いただいたのがきっかけで未来会計の契約をいただきました。この会社に未来会計を提案した背景には、社内で私以外に未来会計ができる人材を増やす狙いがありました。次期未来会計担当者には、最初は私の未来会計の面談に同席してもらい、税務との違いや注意点について実際に見せて教えていこうと考えていました。
未来会計の仕事は、税務会計のようにこちらから『教える』という目線ではうまくいきません。相手の聞き役になることで、むしろ相手から色々な情報を『教えてもらう』ぐらいの気持ちの方がうまくいくと思っています。
私の事務所の未来会計担当者には、こちらから指南する気持ちは捨てて、情報を引き出す・教えてもらうための質問をするように教えています。社長が考えるきっかけになるための質問ですね。例えば売上・粗利・固定費を順番に売上分類ごとに「なんでこの数字になったんですかね?」と聞いていくイメージです。
先日単年度計画を立案する際に、その会社の社長に「色々ヒアリングしてもらえたおかげで、全て出し切りました。」と言ってもらえたのが最高の褒め言葉であると感じています。


未来会計の魅力
Q未来会計の職業としての魅力はどのあたりにあると思いますか?
私たちの事務所の事業目的は『中小企業の可能性の追求』にあります。
中小企業は「戦略がない。経営計画が立てられない。立てても実行管理ができない。そもそも良い人材が入って来ない」など課題だらけです。これらの課題を1つずつでも解決できれば、中小企業の可能性は無限に広がっていくと考えています。そんな話で税理士法人化するときに共同代表の阿部純子税理士と盛り上がりました。
中小企業の社長は、自分たちが数字に弱くて、自社が儲かっているかどうかもわかっていない方が非常に多くいます。社長が苦手とする数字の部分をしっかり我々が補完することができれば、社長は経営のプロなので、しっかり成果を出してくれます。
そして経営数値に基づいて社長が経営できるようになれば、中小企業はもっと良くなるはずです。決算に代表される過去の実績報告だけでなく、社長が考えている未来の数字を側面からお見せすることで、社長の思考や行動も変わってくると思います。
未来会計は会計事務所だからできるコンサルティングだと実感しています。そこが私たち会計人が未来会計をやりたいと思う理由になると思っています。そして、これからの日本経済に未来会計は必要不可欠な仕組みだと言えるでしょう。