「こんなに面白い仕事があったのか」20年目に出会った未来会計という挑戦──桑原雅人税理士事務所 菅野慎一
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福島県郡山市の桑原雅人税理士事務所で20年以上の実務経験を持つ菅野慎一さんは、40代で未来会計に出会い、「こんなに面白い仕事があったのか」と心を揺さぶられました。会計業界の変化に危機感を抱いていた日々の中で挑戦した先に、経営者との対話や変化の手応えが待っていたと語ります。なかなか変化を起こせずにいる方にとってこの経験談は、次の一歩を踏み出す大きなヒントになるはずです。
桑原雅人税理士事務所
菅野慎一桑原雅人税理士事務所
1999 年 11 月に桑原雅人税理士事務所に入所、以来、20 年以上にわたって税務会計担当として業務に従事、IT技術の進化などにより、会計業界の未来を不安視し事務所としていろいろ試行錯誤してみるが、いまだ解決に至っていない。2020 年頃から、未来会計に取り組み始める。当初、通常業務に押され、殆ど活動出来なかったが、大合戦参加をきっかけに事務所一丸となって推進している。 |
民間企業から会計業界へ
Qまず菅野様のキャリアについてお伺いします。会計業界に入られたきっかけから、未来会計に携わるようになった経緯まで、自己紹介を兼ねて教えていただけますか?
専門学校卒業後、民間企業に営業として1年間ほど勤務をしました。それから店舗経営をしている知り合いから手伝ってくれないかと声をかけてもらったことがきっかけで、そこで働くことに決めました。知り合いの店舗では3年間の有期期間の約束で入社しておりましたので、実際に3年後に退職しました。
次の職場を探していたとき、元々通っていた専門学校では簿記や会計を専門に勉強していたため、会計事務所を中心に転職活動を行い、平成11年に今の事務所に入社しました。入社当時は「税理士になりたい」という大きな志はありませんでした。
Q会計事務所に入られた後はどのような仕事を担当されたのでしょうか?
一般的な会計事務所と同じく、会計から税務を専門領域に巡回監査を主に担当しました。毎月顧問先の社長と顧客の経営状況を確認しながら、経理担当者へ書類などの受け渡しをしていました。いざ、会計事務所の仕事をしてみると、領収書の確認など単純作業が多いなという印象を受けました。
未来会計は新たな挑戦
Q現在は未来会計プランナーとしての仕事をされていると思いますが、入社後の転機と言いますか、これまでの仕事の流れを教えていただけますか?
会計事務所業界に対して「このままでは会計事務所が立ち行かなくなるのではないか」という危機感がありました。
それは、所長の桑原雅人が約10数年前にクラウド会計に代表される自動仕訳が導入された頃から、将来的に技術が発達すれば記帳代行から決算書作成まで自動化されるという懸念を持っていたからです。
未来会計を導入するに至るまでに、経営計画書の作成など、事務所として新たなサービスを顧問先に提案することもありましたが、所内での意思疎通がうまくできずに失敗を重ねている状況でした。
Q今に至るまでの事務所や菅野様ご自身の変化について、教えていただけますか?
付加価値サービスで言えば、お客様が決算をむかえる度に決算分析の資料などいろんなものを作って提供していました。時が経つにつれて忙しかったり、資料が揃わなくて申告期限ぎりぎりになったりして、誰もその業務をやらなくなってしまいました。元々担当者の裁量でやっていたことなので、特にそれに対して報酬をいただいていたわけではありませんでした。そういった点もやらなくなってしまった原因のひとつかもしれません。
未来会計に関わるようになったのは今から4年くらい前です。未来会計の仕事をするようになり、会計事務所の通常業務に慣れ過ぎていたので、「こんなに面白い仕事があったのか」と衝撃を受けました。事務所に入って20年経っていたので、自分自身も40歳を過ぎ、心機一転また新たなことに挑戦する気持ちになれたのは良かったと思います。
未来会計を事業化できている会計事務所はありますが、まだまだ一般的ではなく、未開発の領域だと感じます。他の会計事務所とは競争相手ではなく、未来会計を広げていく仲間として連携できたらいいなとも考えています。会計事務所の仕事は、もっと面白い仕事があると伝え、何とかして事業化するのが今の目標です。リーダーシップを発揮して、みんなを引っ張っていきたいですね。
Q未来会計に注力するきっかけになったエピソードがあれば教えていただけますか?
未来会計を提供しているお客様から、「仕事していて今が一番楽しい」という言葉をいただいた時です。その会社は老舗企業の2代目の社長さんで経営自体は安定していますが、先代のやり方を踏襲するだけで中々やりがいを感じにくい環境にありました。そこで経営計画を立てて経営を行うことで、よかったことも悪かったことも含め、初めて経営の楽しさに気づいていただくことができました。
未来会計への取り組み
Q未来会計として提供しているサービスはどのようなものがあるのでしょうか?
「将軍の日」と呼ばれる中期5か年計画の立案サポート、簡素型のMAS監査サポート、社長伴走型のMAS監査の3種類です。簡素型のMAS監査は売上をセグメントごとに分類して、月次で実績を集計し、売上や粗利に対して計画値との比較と結果の分析を行います。社長伴走型のMAS監査は経費や資金繰りの確認など、会社の経営全体を支援するサポートを行います。
Q会計事務所の仕事に就かれて20年程度とのことですが、税務会計の仕事と未来会計の仕事の違いをどのように感じましたか?また、苦労したことや意識していることなどあれば、教えていただけますか?
通常の会計事務所業務は決算報告に代表されるように、終わったことに対して話をします。当然赤字を利益に変えることはできません。一方、未来会計であれば、先の売上と利益について考え、対策することが可能です。前を見るか後ろを見るかの違いだと思います。
数字の回収が思うようにできないことに未来会計サービスとしての苦労を感じます。また、未来会計に携わるようになって、社長がこれからやろうとしていることに対して否定しないことは意識するようになりました。
また社長とマンツーマンで面談せず、数人で会議を行うことでいろいろな人の意見を取り入れるようにしています。私と社長、自事務所から1人、社長が話に加えたい会社の方の計4人で話を進めています。
社長や中小企業の良き相談相手に
Q未来会計プランナーを志すにあたって、必要なスキルやマインドなど、どのようなものが必要でしょうか?
会計や税務の基礎知識は当然必要ですが、考え方がポジティブなのは大切だと思います。
「少しでも現状より会社を良くしよう」という考えに基づいて提案をするので、マイナス思考だと難しいです。社長はもちろんですが、未来会計に取り組む事務所やその職員もお客様や未来に対して肯定的であって欲しいです。
Q中小企業の経営者にとって未来会計プランナーはどんな存在なのでしょうか?
私が今そうであるかというと自信はありませんが、良き相談相手でありたいと考えています。最終的な意思決定は社長がくだされるとして、私が介在することで選択肢を増やしたり、意思決定に自信を持っていただく役割を果たしていきたいです。
Q今後の未来会計プランナーとしての目標を教えていただけますか?
未来会計の取り組みについて我々が行っていることを、地元である郡山市の会社や他の会計事務所、金融機関に知っていただくことが目標です。
そして「未来会計」を広めていきたいです。
Q最後にこれから未来会計プランナーを志す人へ向けて、メッセージをお願いします
簿記資格取得のために学校で学んだことや、通常の会計事務所が行っている税務会計は時間軸で言うと、過去会計というものにあたります。過去会計で終わったことの振り返りだけでなく、これから先の未来の数字を作るということを社長と一緒に考える未来会計もこれからの会計事務所の業務領域として存在してます。とてもおもしろく、やりがいのある仕事なので、ぜひとも挑戦してみてください。