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所長・代表

未来会計が引き出す、社長の“本音”と向き合う力——今、頭の中で少しでも不安に感じていることに寄り添う

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目次


鹿児島市にある有限会社リンクス。代表取締役・加世田武さんは、食品会社から会計業界へ転身し、簿記も知らずに飛び込んだ世界で今や経営支援の最前線に立っています。数字に現れない社長の不安を引き出し、それを計画や資金繰りのシミュレーションに落とし込む——その丁寧な支援が、企業の意思決定と成長を後押ししています。

有限会社リンクス
代表取締役
加世田 武
1974年生まれ。食品会社での商品開発をはじめ、営業職、総務、経理、人事など様々な職種を経験。1998年に海江田経営会計事務所(現:税理士法人アリエス)で約10年間税務会計業務を担当。その後、経営支援業務の専任者となる。2021年6月にアリエスのグループ企業である有限会社リンクスの代表取締役に就任。未来会計をベースとした計画策定支援と伴走支援で鹿児島の企業経営をサポートしている。

「お客様の依頼に応えたい」という想いで、未経験分野の勉強にも取り組む

Q.会計事務所を職場として選ばれた理由を教えてください


偶然です。以前は、北九州・小倉の食品会社で商品開発や品質検査の仕事に従事していました。その後、家庭の事情で地元・鹿児島へ戻ることになりました。就職先を探していた時、現在のリンクスの母体となる海江田会計事務所の求人募集が新聞折り込みチラシで入っていたのがきっかけです。

ダメ元で応募したのですが、私が唯一パソコンを使えたことが評価され、採用されました。当時はちょうどパソコン会計が広まってきた頃で、タイミングとご縁があってこの業界に入りました。入社当時は簿記の知識もありませんでしたが、諸先輩方に追いつけるようまずはお客様からお預かりした資料を会計ソフトに入力する作業から始めました。

入社してから 1 年ぐらいでお客様と会話するようになりましたが、最初のうちはお客様の質問になかなか答えられませんでした。先輩方に色々質問をしたり、やはり自分で調べたりしながら、お客様へきちんとした回答ができるようひたすら頑張っていました。

Q.会計事務所に勤め始めた頃、印象的な出来事はありましたか?

入社当初、ものすごい数の生命保険に加入されているお客様から保険証券を持ち込まれ分析を頼まれたことです。こちらは保険屋さんじゃないですし、先輩からも「そんなことをする必要はない」と怒られましたが、お客様から頼まれたことには何とか応えたくなります。ですので、会計と同時に保険も勉強して、依頼に応えました。

会計事務所の役割は「想像以上に責任の大きい仕事だな」という感覚がありました。正しい利益を毎月きちんと計算し、業績の良し悪しを社長にお伝えする必要があります。そして、その結果から税額を正確に計算しないといけません。ものすごく責任のある仕事だと思い、プレッシャーも感じていました。それ以上に数字の分析やそれに基づいてお客様とお話をするのが楽しいという思いがありました。

社長に寄り添い、社長に計画を作ってもらうサポートをおこなう

Q.未来会計プランナーにチャレンジし始めたのは、いつ頃ですか?


会計事務所に入って 15 年ぐらい経ったタイミングでシフトしてきました。きっかけは、銀行に提出する計画書をお客様と一緒に作ったことでした。その際に、初めて社長と一緒に「未来の数字を一緒に作っていく」作業をして、これは面白いと感じました。そのタイミングで MAP経営さんを知り、未来会計の勉強を通じてのめり込んできました。現在はほぼ全て未来会計分野に仕事がシフトしています。

Q.未来会計のどこを面白いと感じたか、教えてください。

正解がない点が、面白いと思います。会計事務所が行っている税務会計の仕事は、基本的に正解がある仕事です。それも、絶対に間違えてはいけません。未来会計はその真逆で、正解がない数字をひたすらお客様とお話しながら作り上げていきます。それを見て社長が喜んでくれるところに面白味を感じて、未来会計を始めました。

Q.未来会計に取り組み始めた当時、何か悩みはありましたか?

始めた当初は、計画を作る際にお客様を誘導してしまうところがありました。「色々とアドバイスした方がいいんじゃないか?」とか「こういう数字にした方が良いんじゃないか?」といった感じです。しかし、ある時「これは果たして、社長が作った計画と言えるのだろうか」と気が付き、それ以後はひたすら社長に寄り添うスタンスを心がけています。

Q.スタンスを変えられたきっかけについて、もう少し詳しく教えてください。

お客様と作った計画書を銀行に提出した際、社長がその内容をうまく銀行に説明できないことがありました。その時、銀行側から「この計画は誰が作ったの?」と暗に言われました。それが一番のきっかけです。「誰のための計画なのか」と考えさせられる出来事でした。

社長の興味は資金。未来会計プランナーの強みはそのサポートが出来ること

Q.対話のスタンスを変えて苦労されましたか?

苦労はしました。こちらが「今から計画を作りましょう」と問いかけて、すぐに考えを話せるお客様はほとんどいません。たいてい、そこで話が止まります。また、正面から「計画を作りましょう」と言われると、社長は「いい計画を作らなければ」と思いがちです。そして必ず「売上を上げなければ」「経費を減らさなければ」といった話になり、当初はなかなか話が進みませんでした。

昔の自分であれば、そこで「じゃあこうしてみましょう」と提案に入りましたが、今は、社長に「今、頭の中で少しでも不安に感じていること」をとにかく聞き出すようにしています。社長が少しずつ口を開いてくださると、しめたものです。そこから先は、割とスムーズに考えを聞くことができます。

社長は、頭の中に色々な不安や悩みがあります。それをひたすら話していただいて、私がそれを数字にしていくパターンが多いです。最近では「計画を作りましょう」と言うことが減りました。対話の内容を詰めていくと、結果的にそれが計画や目標になっていることがあるからです。

Q.未来会計はどんな社長の悩みを解消するサービスだと考えられていますか?

どんな社長でも頭の中で経営のことを色々とお考えになっています。その考えや悩みをひたすらお話しいただき、それを私が数字にすることで未来に対してイメージしていただけます。例えば、業績の芳しくない会社なら「このまま経営を続けるとどうなるのか」を数字でお見せすることがあります。

それをきっかけに、「このままじゃだめだね」「もっと頑張らないといけないね」と前向きに考えが変わられることがあります。「大きな設備投資をして新たなチャレンジをしたい」「新規事業を立ち上げたい」というお客様も、それが上手くいった場合、上手くいかなかった場合どうなるのか不安はお持ちです。

計画書を立てるさいに、損益の部分までは作成できる社長もいらっしゃいますが、資金まで連動させるのはなかなか難しいようです。でも、多くの社長が最も気にしているポイントは、その資金の話なんですよね。その辺の支援ができるという点で、私のような未来会計プランナーは重宝されているのかも知れません。

支援事例

Q.加世田さんは何社ぐらいをご支援されてるのですか?

現在継続的に支援しているのは、5 社です。それ以外にもスポットで計画を作成されるお客様がこれまでに 30 数件ありました。最近は、補助金関連の依頼が特に増えています。補助金の申請には経営計画書が必要になるため、昨年はコロナ融資の借り換え関連の依頼が増えました。伴走支援制度で計画書を作る際、本来は銀行が作るものなんですが、最近の銀行は人手不足で作り切れないようで、銀行からの紹介で作成をかなり手伝っています。

Q.今までご支援されてきた中で、印象に残っている会社のお話を聞かせていただけますか?

補助金申請がきっかけで支援したお客様の話になります。数億円単位の設備投資による売上アップを目指していらっしゃいました。そのための中期計画を立てました。銀行から借り入れをし、設備投資を行い、計画を実行したところ、4年で中期計画を大幅に上回る実績を達成されました。従業員の数も大幅に増えています。

当初は毎月アフターフォローで入っていましたが、あまりにも業績が良いため、今は半年に 1 回ペースになっています。新たな営業所開設という新しい目標も出てきて、また新たに中期計画の作成に入るところです。

Q.その会社が伸びた要因は、どのようにお考えですか?

当初作成された中期計画を常に手元にお持ちだったところ、かもしれないですね。作った計画を放り出さず、決めたことをスケジュール通り着実にこなされたあたりが、結果に結び付いたのではないかと思います。

Q.未来会計を提供する立場として、どのようにお客様と関わっていますか?

「相談だけを受ける」という関り方をしています。本当に、話し相手ぐらいの感じです。何かしらのアドバイスをするとか、そういったことはありません。毎月お伺いする度に売り上げの見込みや目標をお聞きし、「このままいったら 3 ヶ月後にこうなります」「当初立てた計画とこれだけの上振れ下振れがあります」といった会話を、地道にチェックし続けています。

「3 ヶ月後の会社の状態がわかる」のが、会社の社長には刺さるようです。1 年先や半年先の話をしても、多くの社長はピンと来ません。しかし 3 ヶ月先だと、ある程度リアルにイメージができます。「今月、ちょっと計画とズレてる」となった場合「じゃあ翌月この分の埋め合わせを」といった形で、アクションにも影響が出てきます。未来の話をする際は、あまりにも先の話は避けて、社長がイメージできる範囲内でする。そうすれば、社長に刺さることが多いと感じます。

Q.大変だったお客様の事例も、あればお聞かせいただけますか?

1 社だけ、MAS 監査を解除されたことがありました。こちらのお客様は、当初は中期計画の作成から毎月の顧問契約がトントン拍子で進んでおり、本来であれば当社にとって最初の MAS 監査の顧客になっていたと思います。

社長は勉強熱心な方でしたが私に対しては様々なアドバイス/提案ができるコンサルタントの役割をお求めでした。ところが私は、毎月お伺いする際に数字の話に終始することが多かったです。コンサルタントとしての期待に応え切れず、結局は契約解除となったことがありました。

Q.未来会計業務のやりがいや価値についてお聞かせください。

過去の話をすると暗くなることが多いお客様も、未来の話であれば非常に明るい表情で話してくださる方が多いです。もちろん「明るい未来を作ろう」という前提で話を進めてはいますが、最終的に計画書が出来上がったときに「これならやれそうだ」と言って喜んで帰っていくお客様を見ると、この仕事はやりがいがあると思いますね。「数字を通して社長に元気になっていただきたい」というのが、もしかすると私の中で一番大きなテーマなのかもしれません。

全国の会計事務所へ

Q.会計業界を志す学生・中小企業経営者・全国の会計事務所へメッセージ 

最近は、私が未来会計に携わるようになった 10 数年前と比べて経営計画や未来会計に興味をお持ちのお客様が非常に増えています。以前は未来会計の話をしても「先のことなんかわからないよ」と興味を持たなかったお客様が、今では「これから先がどうなっていくのか知りたい」とおっしゃることも増えました。

会計事務所は今後、経営計画や未来会計のニーズがさらに多く集まってくると思います。そのためこうしたニーズに対応できる体制を会計事務所として整えておいた方がいいんじゃないでしょうか。未来の話を通して中小企業と一緒に取り組める会計事務所が増えるともっと日本はよくなれるはずです。未来の話をして、社長に元気になってもらいましょう。


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インタビューをした人
渡邉 駿介